

What helps people live well — and create freely?
人が幸福に、創造的に生きるために、本当に必要なものは何なのでしょうか。
EUの成長戦略に見られる人間中心の思想、市民の心地よさと健康を起点とした都市計画やAI規制、
地中海沿岸の穏やかな気候、そして、日常に溶け込む芸術。
バルセロナでは、人の幸福や創造性が、社会や環境の設計によって育まれ、
人が豊かに生きるための次世代のライフスタイルのヒントが、この街の随所に垣間見ることができました。
人が生きる意味やモチベーションとは何か。幸福とはどのように生まれ、持続するのか。
そして、人々がより幸福になるために、未来の働き方や暮らしはどのようにデザインされるべきなのか。
こうした問いについて、仕事を通じた多様な方々との対話や、論文・研究を通じて考え続けていますが、
同時に、そのヒントを求め、世界各地に足を運び、人々と対話しながら、
幸福で創造的に生きるために大切なことを体感的に探ることも大切にしています。
毎年、学会参加などに合わせて欧州を巡ることが多いですが、
今年、その目的地として選んだのがスペイン・バルセロナです。
今回は、視察に加え、重要なミッションもあり、
結果として約1か月弱、2度に分けてこの街で暮らすように過ごす機会に恵まれました。
人が豊かに生きるためのヒントが、
都市の設計や芸術のあり方に深く組み込まれていることに感銘を受け、
体験したことをメモとして残したいと考えました。
TOC|目次
人を中心とした街づくり ―― バルセロナの都市設計から学ぶこと
バルセロナの都市設計は、人の幸福と創造性を自然と育むデザインにあふれています。
この街で暮らすように過ごした期間、
朝から夕方まで、どこにいても澄み渡った広い空を眺めることが、毎日の楽しみでした。
都市開発において天空率が確保され、厳しい開発規制があるために、
海からの心地よいそよ風が自然に街を抜けていきます。
バルセロナを歩く独特の心地よさは、世界の観光都市では非常に珍しいものです。
欧州では、AI規制を含むさまざまな政策においても、
一貫して「人間中心」という考え方が反映されています。
スピードや効率よりも、人々の暮らしの質や心地よさを優先する姿勢を、
日常の風景の中で実感せずにはいられません。
地中海沿岸の恵まれた気候と、
市民の暮らしを第一に考える都市設計、
そしてそれを支える政治的・制度的な取り組み。
これらが重なり合うことで、
人々の幸福やクリエイティビティが自然に引き出される環境が形成されているように見えます。
EU各国は、中長期的な成長戦略として
「European Green Deal(グリーンディール)」を掲げ、
気候・環境課題をすべての政策分野の中核に据えています。
経済成長と環境、人間の幸福を対立させるのではなく、
それらを同時に実現しようとする考え方です。
バルセロナの街を歩いていると、この思想が理念にとどまらず、
日常の風景として実装されていることに気づかされます。
スーパーブロックという実験
その象徴的な取り組みの一つが「スーパーブロック(Superblocks)」です。
一般車両の通行を大幅に制限し、
歩行者や自転車を中心とした空間へと都市を再編する試みです。
スーパーブロックは、単なる交通政策ではありません。
研究では、住民の健康や幸福感の向上に
ポジティブな影響を与えていることが示されています。
Barcelona Superblock Project: Blueprint for the Livable City of the Future?
街の至るところに計画的に配置されたベンチや公共空間は、
人々が立ち止まり、語り、居場所を感じるための装置として機能しています。
都市とは、
効率的に移動するためのインフラではなく、
人々とともに「居場所」をつくり続けるプロセスなのだと実感させられます。



街全体がアート ―― 芸術とウェルビーイングの関係
バルセロナを特徴づけているもう一つの要素が、芸術が日常に溶け込んでいることです。
ガウディ建築に代表されるように、この街では光や動き、自然との調和を通じて、人が自らの存在を作品の中に見出す体験が意図的につくられています。











芸術が人の幸福と創造性に与える影響
芸術鑑賞や創作活動がウェルビーイングを高めることは、これまで多くの研究でも示されています。
美術を鑑賞することが、生活の質や社会参加意識が向上し、
ストレスホルモンも低減させるのです。
これらの研究は、芸術が特別なものではなく、日常的に触れることで人の心身を整える力を持つことを示唆しています。
さらに、創造性と幸福の間には正の相関関係があることも、これまでの研究者が明らかにしてきました。











創造性という観点では、日常にアートが遠く感じられる際には、本屋さんを巡るだけでも脳が大いに刺激を与えてもらえる気がしています。
暮らしている場所のすぐそばにあるこちらの本屋さんLibreria Finestresにいくことが毎日の楽しみであり、インスピレーションの源泉にもなっていました。



地中海沿岸の穏やかな気候と、芸術に囲まれた都市環境は、人々の感情を安定させ、結果として創造性を引き出しているように感じられます。
バルセロナでの滞在は、テクノロジーの進化を追い続けるだけでは十分ではない、という気づきを与えてくれました。
人間らしさの原点に立ち返り、自然や芸術とともに生きる感覚を日常にどう組み込むか。その姿勢こそが、持続可能な創造性と幸福を生み出す基盤なのではないでしょうか。
AIと共存する未来において、真に価値を生むのは、人間の感性や想像力が自然に発揮される環境づくりなのだと、この街はいつも教えてくれているように思います。
Reference
Barcelona Superblock Project: Blueprint for the Green City of the Future?
RESULTS REPORT Salut als Carrers (Health in the streets)
Urbanisme, Transició Ecològica, Serveis Urbans i Habitatge
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