不確実で複雑な現代において、企業は革新し続けることを求められています。そこでこの数年着目している変数は、リーダーの革新的行動/ innovative work behaviour (IWB)です。
革新的行動/ innovative work behaviour (IWB)とは、
新しい価値あるアイデアを開発し、実行するために必要な行動のことです(Akbari et al., 2020)。
イノベーションの重要な要素であるリーダーシップ(Makri & Scandura, 2010)は、従業員の仕事行動に強力な影響を与え、組織のIWBを促進すると言われています(Li et al., 2019)。しかし、従業員の革新的な行動を刺激する効果的なリーダーシップについてはまだ解明されていません (Kang et al., 2015)。そこで、リーダーのアイデンティティに着目することにしました。その理由は、効果的なリーダーシップはリーダーのアイデンティティに依存していると言われているためです(Day & Harrison, 2007) 。アイデンティティの変化はリーダーの目標や知識に影響し、フォロワーのアイデンティティにも影響する可能性があるからです (Lord & Hall, 2005)。
これまで、IWB とリーダーシップの関係は十分に研究されていますが (Geibel et al., 2022; Reuvers et al., 2008; Tan et al., 2021)、IWB とリーダーのアイデンティティの関係を調査した研究はほとんどありませんでした。そこで、リーダーのアイデンティティが IWB に与える影響と、IWB とワークエンゲージメントや自己効力感などのいくつかの変数との関係を、これらの変数がリーダーのアイデンティティと相関していると仮定して実際に調査を実施することにしました。
【調査方法】
日本企業で働くリーダー 506 名にご協力いただき、ウェブベースの調査を実施しています(人口統計学的変数には、性別、年齢、教育レベル、管理職経験年数が含まれます)。サンプル全体のうち、71.7% が男性で、平均年齢は 41.1 歳 (SD = 11.56)、67.2% が学士号、8.3% が修士号を取得。サンプルは、製造業 (22.7%)、サービス業 (12.1%)、情報通信業 (9.7%)、金融・証券・保険業 (6.92%)、医療・社会福祉業 (6.92%)、建設業 (6.52%) など、できる限りあらゆる業界を対象に実施しています。
リーダーの方々に、4つの変数(リーダーアイデンティティ、革新的行動、ワークエンゲージメント、自己効力感)に関する項目についてお聞きし、抽出されたデータは、重回帰分析にて調査しています。
使用した尺度は以下の通り、Innovative Work Behaviour Scale (Janssen, 2000), The Self-Concept Scale (LSCS) (Johnson et al., 2006), The Utrecht Work Engagement Scale (UWES) (Schaufeli & Bakker, 2004), Generalized Self-efficacy Scale (Schwarzer & Jerusalem, 1995)。
【結果】
結果は、冒頭の図のようになっています。
リーダーのアイデンティティ、ワークエンゲージメント、自己効力感は、それぞれがIWB にプラスの影響を与えることが示唆されました。最もIWB(革新的行動)に影響力が大きかったのは、リーダーのアイデンティティでした。組織がイノベーションを起こし続けるためのリーダー開発として、リーダーのアイデンティティに着目することも一つの有効なアプローチかもしれません。
ただ、リーダーがIWB(革新的行動)を促進していくことによる悪影響も考慮する必要があります。Hammond & Eubanks (2019)の研究によると、IWB (革新的行動)の加速は、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こしてしまう可能性があるのです。
この課題を未然に防ぐために、私自身が着目したのがワークエンゲージメントと自己効力感です。ワークエンゲージメントはバーンアウト(燃え尽き症候群)に対処し (Schaufeli et al., 2009)、自己効力感は疲労を事前に知らせるのに役立つためです (Xanthopoulou et al., 2007) 。
今回の実験を通して、リーダーのアイデンティティ、ワークエンゲージメント、自己効力感を醸成することに着目することによって、リーダーのIWB (革新的行動)を育むことができる可能性があることの洞察を得ることができました。
しかし、今回の実験は、横断的な性質を持っているため、変数間の関係についての因果推論が限られています。リーダーのアイデンティティは、その特性上、縦断的研究で考慮する必要があるためです (Day & Hock-Peng, 2011)。
時間の経過に伴う変化を理解することで、IWB(革新的行動)、リーダーのアイデンティティ、ワークエンゲージメント、自己効力感の変数間の垂直的な因果関係が明らかになる可能性があります。
さらに、今回の調査では、アンケート項目による自己評価に依存しているため、結果は個人の仮定や偏見の影響を受けています。今後の研究では、客観的な外部評価も含める必要があり試みたいと考えています。
最後に、この研究は、多重回帰分析による 4 つの変数間の関係の傾向の理解に限定されています。リーダーのアイデンティティと IWB の関係における潜在的な双方向の因果メカニズムを発見するには、構造方程式モデリングなどのさまざまな手法を使用してリーダーシップ IWB のモデルを構築する必要があるため、こちらも未来の宿題として取り組んでいきたいと考えています。
【REFERENCES】
Akbari, M., Bagheri, A., Imani, S. and Asadnezhad, M. (2020), Does entrepreneurial leadership encourage innovation work behavior? The mediating role of creative self-efficacy and support for innovation, European Journal of Innovation Management, Vol. 24, No. 1, pp. 1-22.
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Day, D. V. and Harrison, M. M. (2007), A multilevel, identity-based approach to leadership development, Human Resource Management Review, Vol. 17, No. 4, pp. 360-373.
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