世界で増加するリーダーのバーンアウト

こちらの写真のようにEveryday Paradiseとなることが理想ですが、そうもいかないのが私たちの日常です。
下記の図のように2022年に60%であったものが、2023年には72%に増加しています。これは、リーダーのある状態を表したものですが、何を表すものだと思いますか。

Global Leadership Forecast 2023

Global Leadership Forecast 2023の世界的調査(世界50か国以上の1,556の企業の1827人の人事と13695名のリーダーを対象に実施調査)による、リーダーのバーンアウトの兆候の割合です。
2023年には、リーダーの72%が一日の終わりには疲れ果てた(バーンアウトの状態)と感じることが多いと回答。
2020年の60%から増加しており、バーンアウト(燃え尽き症候群)だと感じているのはわずか15%にとどまっています。※バーンアウトとは、自分の職業の価値について冷笑し、自分の能力を疑うような疲労の状態のことです(Maslach et al., 1997, p. 20).

その要因は、あらゆることが考えられ、またリーダーの置かれた状況によって異なるので一概に言えませんが、21世紀におけるバーンアウトの要因と言われているものがあります。その要因は社会的な背景と非常に関連があるため、簡単にバーンアウトの歴史を振り返ることから始めましょう。

バーンアウト(燃え尽き症候群)の研究をリードする研究者によるレビュー (Maslach, Schaufeli, & Leiter, 2001; Halbesleben & Buckley, 2004; Schaufeli, Leiter & Maslach, 2009; 北岡, 2017)を参考にして、バーンアウトの根源からワークエンゲージメンへの変遷をたどります。

バーンアウトは、1960年代に米国で始まり、1970年頃には社会福祉や医療などの社会福祉分野でストレスに関する研究が盛んになっていきます。やがて、1980年代後半には社会福祉分野の人たちを対象にすることに留まらず、職業の対象範囲が拡大していくのです(例:問題解決能力や創造性が求められる管理職など)(Schaufeli, Leiter & Maslach, 2009)。
このような背景から、バーンアウトの概念は1990年代に心理学の領域に移され、次のように定義されました。
バーンアウトとは、「自分の職業の価値について懐疑的になり、自分の能力を疑うような消耗状態」です(Schaufeli, Leiter & Maslach, 2009, p. 206)。

HalbeslebenとBuckley(2004)によると、バーンアウトには3つの症状があります。

1 . 感情的消耗で、精神的疲労により、仕事を遂行するためのエネルギーとリソースが枯渇する症状
2 . 感情的消耗により、自分のパフォーマンスや同僚に対する無関心の態度が生まれること
3. 個人の達成度が低下すると、職業能力に対する認識が低下すること


バーンアウトを示す用語の意味と使用法は国や地域によって異なりますが、バーンアウトは社会文化的および経済的発展とともに世界中に広がっています。1990 年代半ばには、新しい傾向が現れました。Maslach と Leiter (1997) は、以前は否定的だったバーンアウトの状態を肯定的な状況に言い換え、エンゲージメントと名付けられるようになるのです(Bakker et al., 2008; Schaufeli, Leiter & Maslach, 2009) 。

北岡 (2017)によると、下記の図のようなにバーンアウトの関心は広まり、それぞれの諸国の経済的発展の順番と一致していることは非常に興味深いと述べています。

バーンアウトからワークエンゲージメントへの概念変遷 (北岡, 2017)

このように、社会的背景と関連してバーンアウトの概念は時間の経過とともに変化してきた背景があります。Schaufeli & Maslach (2009) によると、21 世紀には、特に若い世代の新しい価値観と仕事の性質や文化的背景の変化により、バーンアウトの要因も変化しています。

現代のバーンアウトに寄与する要因は、下記の2つであるとのべています。
リソースと要求の永続的な不均衡
従業員の個人的な価値観と組織の価値観の対立


21 世紀の従業員は組織のビジョンと価値観に懐疑的であり、それが対立を生み出す可能性があるのです。
さらに、組織の理想としてのビジョンと現実の間にギャップがあることを従業員が認識して組織を距離を置く可能性があるのです (Schaufeli, Leiter & Maslach, 2009; 北岡, 2017)。

従業員が組織の価値観と個人の価値観を理解し、その重なりを見出すことが非常に重要であると、これらの研究背景や現在の世界の傾向、なにより日々の多くの日本企業の経営者、人事担当者、社員の方々との対話から感じています。世界で増え続けているリーダーのバーンアウトを予防するために、組織は、この個人の価値観に着目していくこと、さらに、個々のワークエンゲージメントやWell-beingを高めていくためのあらゆるアプローチをしていくことが欠かせません。その具体的な方法は、また長くなるので別の記事にて共有していきます。


【REFERENCES】
Halbesleben, J. R., & Buckley, M. R. (2004). Burnout in organizational life. Journal of management, 30(6), 859-879

Kitaoka, K. (2017). Concept of burnout: where did it come from? Where will it head?. Journal of Wellness and Health Care, 41(1), 1-11.

Maslach, C., & Leiter, M.P. (1997), The Truth about Burnout, Jossey-Bass, New York, NY

Schaufeli, W. B., Leiter, M. P., & Maslach, C. (2009). Burnout: 35 years of research and practice. Career development international, 14(3), 204-220.

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