幸福学のSDMの前野教授の講義の中で、Well-being, Innovation, Work engagementの関係性について学び、改めて自身でもこの関係性について考えたいと思う。
【 Well-beingと Innovationの関係性 】
そのまえに、「幸福学」の基礎について、前野隆司教授の講義で重要な点をいくつか。
✓継続する幸せとは?
◆「地位財」型の幸せ=長続きしない
例)金、モノ、社会的地位など他人と比べられる財
◆「非地位財」型の幸せ=長続きする
例)安全などの環境に基づくもの、健康など身体に基づくもの、
✓心理的要因(幸せの4因子とはなにか)
1.自己実現と成長(やってみよう因子)
2.つながりと感謝(ありがとう因子)
3.前向きと楽観(なんとかなる因子)
4.独立とマイペース(あなたらしく因子)
✓幸福感とパフォーマンスの関係
創造性・生産性について
幸福感の高い社員の創造性は3倍、生産性は31%、売り上げは37%高い
‐ リュボミルスキー、キング、ディーナー
欠勤率・離職率について
幸福度が高い従業員は、欠勤率が低く(George,1989), 離職率が低い(Donovan,2000)
✓幸せと協創・イノベーションの関係
協創の条件:
1.創造性
2.つながり協働
3.ポジティブマインド
4.独自性
幸せの条件:
1.「自己実現と成長」
2.「つながりと感謝」
3.「前向きさと楽観」
4.「独立とマイペース」
協創の条件と幸せの条件、それぞれの1~4が非常に近い意味合いをもっており、関係があるのではないかと前野教授は述べています。以上、慶應義塾大学大学院SDM前野教授の2018年幸福学の講義より。
では、改めて冒頭の問い。
《イノベーションを起こすためには幸せである必要があるのか》
この問いに対して自分なりに考えてみたい。
“イノベーションを起こすためには幸せである必要がある”という問いに対して、“幸せ”の定義を非地位財型の心理的要因(幸せの4つの因子)とするならば、その通りであると考える。
一方で、非地位財型の安全など(環境に基づくもの)、健康など(身体に基づくもの)に対しては、必ずしも必要な条件ではないと考える。むしろ、これらの要素が不十分であり環境が万全ではない状態でありながら、心理的要因(幸せの4つの因子)がある場合の方が、破壊的でインパクトのあるイノベーションが起こりやすいのではないかとさえ感じる。
なぜそう思ったのか。それは、日頃からベンチャー企業に関わっており、多くの起業家やベンチャーマインドを持つ人々と接する中で感じることは、一見、“幸せ”とは相反するような境遇や、現状に満足していない人も少なくないためである。
イノベーションを起こすための“幸せ”とは、置かれている環境や状況ではなく、その人の心のありよう(幸せの4つの因子を満たすこと)が大切なのではないか。関わる人達に対して、より一層、この4つの因子が少しでも高まるようなコミュニケーションを心掛けたいと思う。
【 Well-beingと InnovationとWork engagementの関係性 】
“イノベーション”と“幸せ”のつながりについての講義に参加しながら、この2つテーマは、“ワークエンゲージメント”にもつながることではないかと感じている。
ワーク・エンゲイジメントの高い人とは,仕事に誇り(やりがい)を感じ,熱心に取り組み,仕事から活力を得て活き活きとしている状態にある。(島津,2010)
まさにこのような状態に人があるときに、“イノベーション”を起こしやすく、“幸せ”な状態であるのではないかと感じたため、“イノベーション”と“幸せ”それぞれについて“ワークエンゲージメント”とのつながりについて思いを巡らせてみたい。
まず、“イノベーション”と“ワークエンゲージメント”については、創造性・革新性を“イノベーション”と捉えるならば、正の関係にあるといえる。その理由は、従業員のエンゲージメントは、生産性、創造性、革新性、顧客サービスなどの従業員自身の役割やそれ以外での振る舞いを積極的に高めるためである(Piyali et al., 2002)。
次に、ワークエンゲージメントと“幸せ(ここでは幸せの4つの因子)”についてのつながりについて考えてみたい。
“ワーク・エンゲージメント”の規定要因としては,仕事の資源(job resources)と個人資源(personal resources)が、これまでの実証研究で明らかにされている(島津,2010;Schaufeli et al., 2002; Bakker et al., 2007)
島津(2010)によると、「自分を取り巻く環境 を上手にコントロールできる能力やレジリエンス と関連した肯定的な自己評価」(Hobfoll et al.,2003)で、個人資源が高まることを述べている。まさに、このことは、幸せの4つの因子“前向きと楽観(なんとかなる因子)” “独立とマイペース(あなたらしく因子)”とつながりが深いのではないか。
前向きで楽観的であるからこそ、自分を取り巻く環境を上手にコントロールすることができ、レジリエンスと関連した肯定的な自己評価をできるのではないか。また独立とマイペースさがあると周囲からどのような否定をされようとも、自分を信じて肯定的な自己評価を保っていられるのではないか。
さらに、「仲間意識の醸成・人間関係の向上」によって、ワークエンゲージメントのもう一つの要素である仕事の資源が高まるのではなかろうか。
なぜならば、仕事の資源とは,仕事において
①ストレッサーやそれに起因する身体的・心理的コストを低減し,
②目標の達成を促進し,
③個人の成長や発達を促進する機能を有する物理的・社会的・組織的要因である (島津,2010;Schaufeli et al., 2002; Bakker et al., 2007)
これは、幸せの4つの因子“つながりと感謝(ありがとう因子)” “自己実現と成長(やってみよう因子)”につながるのではないか。
「仲間意識の醸成・人間関係の向上」によってつながりや感謝が増えると考えられ、上記にある“③個人の成長や発達を促進する機能を有する物理的・社会的・組織的要因”とは、自己実現と成長を促すことであると考えられるためである。
自分自身にとって関心のある3つのテーマ: Well-being, Innovation, Work engagement
それぞれのテーマが大きいため、関連する項目も膨大である。Literature Reviewを通して、この数年で研究するテーマを掘り下げていきたいと感じる。
【Reference】
◆Bakker et al. (2007) Bakker AB, Demerouti E:The Job DemandsResources model: State of the art. J Manag Psychol 22:pp.309-328, (2007)
◆Piyali et al. (2016) Piyali Ghosh, Alka Rai, Anamika Singh, Ragini:Review of Integrative Business and Economics Research, Vol. 5, no. 2, pp.1-10, April 2016
◆Schaufeli et al. (2002) Schaufeli WB, Salanova M, Gonzalez-Romá V, et al:The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmative analytic approach. J Happiness Stud 3:pp.71-92, (2002)
◆Shimazu (2010) Akihito Shimazu:Individual- and Organizational-focused approaches in terms of Work Engagement Jpn J Gen Hosp Psychiatry(JGHP), (2010)